29.彼の不安と彼女の決断

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 私の学力では思うようにならないかもしれないことも承知の上での、ある種の賭けだ。  幼なじみの寛道(ひろみち)が、何故かその部門だけこちらのキャンバス内にある、医科大学の方の薬学部を受けた時、私、すごい!って思ったの。  先輩だった寛道(ひろみち)の受験の時はもちろん、自分が受験する段になっても、医療関係なんて私には無縁だと思っていたから。  変形菌(好きなこと)を貫く形でそちらの道を選んだ寛道のこと、尊敬しつつも私とは交わらない人生だって思ってた。  だけど――。 「私の頭じゃ無理かもしれないけど……でも……挑戦してみたいの。――私、助産師の資格、取りたい!」  さすがにお医者さんになって貴方を支えたいなんて言わない。  お母さんみたいに看護師さんになる道ももちろん考えたけれど、私、ナースよりも頼綱(よりつな)とともに赤ちゃんを取り上げる喜びを分かち合える、助産師になりたいって思ったの。  助産師さんとして頼綱の横に立てる戦友(パートナー)になりたい!って。  頼綱と一緒に暮らすようになってから、あれだけ抱えていたバイトを辞めて、少し時間が出来て。  授業の隙間に学内の図書館に行って、そこの司書さん――多分館長さん?――に色々聞いてアレコレ調べて……助産師への道のりの険しさも重々理解した上で。  それでもやっぱり私はその道を歩みたい、歩まなきゃダメだって思ったから。
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