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戸惑いがないか?と言ったら嘘になる。
現に考えてはいたけれど、ずっと誰にも(それこそうちの大学図書館の司書さん以外には)相談できずにいたのは少なからず迷いと不安と恐れが私の中に混在していたから。
でも、今、頼綱が産科部門から撤退するって言った瞬間、私の中で覚悟が決まったの。
頼綱が、頼綱の迷いが……私の背中を押してくれたんだよ?
「花々里……」
「キミには無理だよ?とか言わないでね?」
薄暗がりの中、恐る恐ると言った様子で私の頬へ伸ばされてきた頼綱の手をギュッと握って、私は大好きな彼の顔をじっと見つめ返す。
ちょうど通りかかった対向車のヘッドライトが、そんな私たちの姿を一瞬だけ照らして通過していって。
「私、死に物狂いで頑張るから!」
ただ、そうなると家事のお仕事は出来なくなってしまうかもしれない。
それが気掛かりだとふと視線を下向けたら、頬に触れたままだった頼綱の手にグイッと顔を上向かせられた。
「そんなこと気にする必要はない。キミは僕の大切なフィアンセだ。いつまで使用人のままでいるつもりかね?」
大好きだと意識させられてしまった美貌で、じっと見つめられて、私はにわかに照れくさくなった。
「あ、り……がと」
しどろもどろにお礼を言ったら、「礼を言うのは僕の方だよ、花々里。僕のためにそこまで考えてくれて……本当に有難う」ってギュッと抱きしめられた。
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