30.私にぴったりの?

16/16
前へ
/703ページ
次へ
 そう思った私は店員さんに小さくうなずくと、緊張でフルフル震える手で頼綱(よりつな)の左手薬指にリングを通す。  手が震えているからか、なかなかうまく彼の指――特に男性らしく節くれだった関節の辺り――を通過させられなくて四苦八苦してしまった。  そんな不器用な自分の手際の悪さが、照れくささに拍車を掛ける。  頼綱は、私のモタモタした動作でさえも愛しくて堪らないと言わんばかりの優しい目でじっと見つめてきて。  その視線ですらも、私の胸をどうしようもなく高鳴らせるの。 *** 「ねぇ花々里(かがり)。このまま婚姻届も提出しに行こうと思うんだけど……どうかな? 実は最初からそのつもりで指輪にも刻んであるんだけどね。――今日は……大安吉日なんだ」  頼綱にじっと見つめられた私は、よく分からないままに小さくコクッとうなずいて。  そうしてゆっくり頼綱の言葉の意味を考えて、やっと得心する。  そっか。  だから今日の日付けが――。  あれは購入日ではなくて、入籍日だったんだ。  そう気が付いた私は、にわかに〝いよいよ頼綱の奥さんになるんだ〟という実感が湧いてきて。  ――私、家に帰り着くころには〝御神本(みきもと) 花々里(かがり)〟になってるの……?  頭の端っこで、冷静な自分がうっとりとそんなことをつぶやいた。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2666人が本棚に入れています
本棚に追加