32.Epilogue

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***  妊婦健診は、最初に妊娠を確認して頂いたとき同様、うちの病院の紅一点、杉本先生にお願いしています。  やっぱり頼綱(よりつな)にっていうのはいくら夫とはいえ――いや、夫であるがゆえに?――恥ずかしかったし、ましてやお義父(とう)さまや、同僚の男性医師に、なんていうのは論外でっ。  お腹の上から経腹(けいふく)エコーが掛けられるようになってからならまだしも、初期の経膣(けいちつ)エコーの時はさすがにちょっと、と思ってしまったの。 「――それでいいよね?」  早くも始まっていた悪阻(つわり)の症状に戸惑いながら、妊娠していることを告げた日。  母子手帳を手に喜びに震える頼綱にそう問いかけたら、彼を主治医に選ばなかったことを少し不満そうにしつつも、「花々里(かがり)の意思を尊重するよ」と了承してくれた。  そんな頼綱が、「ビタミンAの過剰摂取になっても困るし、そもそも滋養が付きすぎるのは花々里(かがり)の症状からすると余りよくなさそうだから。……とりあえず産むまでは(うなぎ)、やめておこうね」と言ってきたのには思わず「えっ」と声が出て。  初期は胎児の奇形にも繋がるから控えるのは分かるけど……頼綱さん、いま出産までお預け的なこと言いませんでした!?  私、妊娠で太りやすそうだから大好物の鰻、我慢しなさいって意味で合ってますか!?  何だか主治医を頼綱にしなかったことへの意趣返しをされたようにも思えた私だったけれど、彼の言うことは一理も二理もある気がするし……きっと考えすぎ、だよね?  そう思い直して、私、ヨダレ(なみだ)をグッと堪えて素直にうなずいて。  心の中でをしたの。
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