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いざとなると、産む側と寄り添う側とではちょっぴり温度差が出ちゃうの、仕方ないのかな?
頼綱も分かっているはずなんだけど、きっとお産の時って女性はそれどころじゃないはずなのに。
平常心でいられる健診の時ならともかく、いざ出産ともなると、赤ちゃんを無事に取り上げてくれるなら正直誰が担当でも構わないって私、思ってる。
ただ、頼綱には――出来れば取り上げる側ではなく、産む側から〝父親として〟サポートしてもらいたいっていうのが本音。
そんな諸々の感情を飲み込んで、私、頼綱ににっこり微笑んだ。
「きっと大丈夫だから」
この子は今日中に生まれてきてくれる。母親の勘がそうささやいてるもの。
自分の提案にイエスともノーとも答えない私に、頼綱がキョトンとして。
「花々里、それは――」
どう取ればいい?と言いたげな頼綱に、
「ほらっ。遅刻しちゃうよ? その時が来たらちゃんといの一番に頼綱に連絡するから。スパッと気持ちを切り替えて行ってらっしゃい!」
土間に降りて、頼綱の背中をグイグイ押して外に押し出すと、尚も不満そうに私を振り返ってくる彼の頬にチュッとキスを落として、もう1度トドメのように「行ってらっしゃい」と告げる。
そうして、このお話はこれでおしまい、とばかりに手を振って、半ば強引に彼を仕事場へ送り出した。
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