32.Epilogue

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***  時折お腹が張って、微かにキューッと生理痛のような痛みを感じるようになった頃、私は八千代さんにお願いしてお買い物を頼んだ。  八千代さんが出掛けている間に、早炊き設定で炊飯器のスイッチを入れてキッチンの椅子に腰掛ける。 「よいしょ」  お腹が大きいあまり、このところ無意識に出るようになってしまった掛け声(ことば)に思わず苦笑して。  ちょっと動いたら暑くなって、羽織っていた透かし編みのカーディガンを椅子に掛けて、ほぉっと一息ついた。  炊き立てほかほかのご飯が出来たら、これでおにぎりを作るぞー!と思ったら自然頬がほころんで。  おにぎりを彩る具も、ちゃんと決めてあるの。  ふふっ。楽しみっ! 「イタタタ……っ」  そこでキューッとお腹が張る痛みに背中をさすって。だけどまだ我慢出来ないほどじゃない。  絶対とは言えないけれど、私、初産だし、きっとあと数時間は猶予(ゆうよ)があると思うの。  学校で学んだ知識が、案外いま冷静に自分の状況を見つめられる指針になって助かるなぁとか思いつつ。  痛みが和らぐとすぐ、気持ちが炊飯器と、八千代さんにお願いしたお買い物にさらわれる。  おにぎりの具材の定番はシャケや梅干しやおかか。  だけど今回私が八千代さんにお願いしたのはそれらじゃないの。
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