2663人が本棚に入れています
本棚に追加
/703ページ
「ほらほら、坊っちゃま。おむすびの必要性がお分かり頂けたのでしたら、さっさとそこの鰻をこっちに取ってくださいまし」
私と頼綱の不毛な会話を、八千代さんがピシッ!とぶった斬って。
頼綱は彼女の声に押されるように、慌ててトースターに手を伸ばして。
途端「熱っ!」と手を引っ込めた。
庫内でトースタープレートがカタン!と揺れて、アルミホイルに包まれた私の鰻が、中でジューッと音を立てた。
――きゃー、プレートごと落っこちなくて良かった!
「もぉー、頼綱坊っちゃまはそちらに避けておいてくださいませ。わたくしがやりますので」
心臓バクバクでそう思っていたら、八千代さんが鍋つかみを片手にオーブンから熱々ホクホクの鰻を取り出して鍋敷の上に置く。
その辺りでやっと痛みが引いてきた私は、スクッと背筋を伸ばすと、八千代さんの横に立った。
熱々の鰻をアルミホイルごとそっとまな板に移して包みを解くと、火傷しないよう気を付けながら1.5センチ幅に切って、添付されていたタレをたっぷり掛ける。
――んー、美味しそうっ!
手についたタレを舐めたら、すっごく愛しい味がして、生唾がじわりと口の中にあふれた。
最初のコメントを投稿しよう!