2662人が本棚に入れています
本棚に追加
/703ページ
ただいま
「――っ、……花々里、花々里っ」
ペチペチと頬を叩かれて、私は薄らとまぶたを開ける。
紗がかかったようにハッキリしない意識の底、むせ返るような甘ったるい花蜜の香りに満たされている。
それが居心地悪くて新鮮な空気が欲しくて堪らないのに、何故か吸い込めなくて……。
息が、出来ない。……苦しい。
「……っ――!?」
そのことに気付いた私は、懸命に酸素を求めてケホケホと激しく咽せた。
そんな私の背中を、頼綱が優しく撫で上げてくれて。
それに誘引されたように、喉の奥から熱いものが込み上げてきて、咳と一緒にコポリと外へ吐き出された……気がした。
途端、あんなに苦しかった呼吸が嘘みたいに楽になる。
すぐ口元に手を当てたけれど、私、本当に何かを吐き出してしまったわけではないみたい。
床にも口元にも何の残滓も感じられなくて。
ただ、口の中に甘い香りだけが残っていた。
最初のコメントを投稿しよう!