ただいま

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ただいま

「――っ、……花々里(かがり)、花々里っ」  ペチペチと頬を(はた)かれて、私は薄らとまぶたを開ける。  (しゃ)がかかったようにハッキリしない意識の底、むせ返るような甘ったるい花蜜(かみつ)の香りに満たされている。  それが居心地悪くて新鮮な空気が欲しくて堪らないのに、何故か吸い込めなくて……。  息が、出来ない。……苦しい。 「……っ――!?」  そのことに気付いた私は、懸命に酸素を求めてケホケホと激しく()せた。  そんな私の背中を、頼綱(よりつな)が優しく撫で上げてくれて。  それに誘引されたように、喉の奥から熱いものが込み上げてきて、咳と一緒にコポリと外へ吐き出された……。  途端、あんなに苦しかった呼吸が嘘みたいに楽になる。  すぐ口元に手を当てたけれど、私、本当に何かを吐き出してしまったわけではないみたい。  床にも口元にも何の残滓(ざんし)も感じられなくて。  ただ、口の中に甘い香りだけが残っていた。
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