あなたの名前はね

2/7

2663人が本棚に入れています
本棚に追加
/703ページ
 生まれてきた赤ちゃんを見て、頼綱(よりつな)が「よく頑張ったね、花々里(かがり)」と(ひたい)にかかる髪をそっと避けるようにして、汗ばんだおでこをやんわりと(ねぎら)うように撫でてくれた。  初産としては教科書通りのいいお産だったと、助産師としての自分がささやく反面、これで初産のママたちに、「安産で良かったですね」と声かけをしていた自分を「ごめんなさいっ。今度から言いません!」と反省しきりの新米ママの自分がいた。  だって、杉本先生に「息んでいいですよ」って言ってもらえるまでが、すっごく長くてしんどかったんだもん!  赤ちゃん、準備してきた「鰻の小手毬お握り(いくさめし)を全部食べ切ってもまだ生まれて来てくれなかったんだから。  傍目(はため)に見るのと、自分が当事者になるのとでは大違い。  お産はやっぱり大変なんだと、私は身をもって思い知ったの。  でも、腕に託された赤ちゃんの顔を見ると、そういう諸々(もろもろ)が全て吹き飛んで、ただただ「可愛い」という気持ちが湧き上がってくるから不思議。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2663人が本棚に入れています
本棚に追加