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「あんたも相当な目にあったんだろうな。そんな雰囲気が組長の目に止まったんだろうよ。綺麗で脆くてほっとけねぇ。女よりも危なっかしいのな、おまえらって」 「一緒にしないでください」 「そうそれそれ。勝気でわがままな所もそっくりだぜ」  あっけらかんと笑う。こんな人のいい加藤がなぜヤクザなのかとまた不思議に思う。  哲郎もそうだ。死神のように冷えた雰囲気はあるものの、その背の高さもあってすれ違う人が皆振り返る。端正で優雅な余裕すらある。前の若頭って人も、もしかしたら一見してヤクザとはわからない男だったかもしれない。 「あの、その若頭って人は?」 「死んだ。澪の目の前で」  これも簡単に言う。死が身近すぎて彼らは鈍感になっているのか、それがヤクザなのか。佳澄は反応に困って身を硬くするばかりだ。 「澪は後追い自殺をしようとした。それを引き留めたのが哲兄だ。澪が17の時だった。それから10年、二人はなんとも奇妙な関係でいたよ」 「奇妙な関係? 恋人同士になったのではないのですか?」 「おれぁやっぱり男同士の関係はよくわからなくてよぉ、澪はセックス中毒で四六時中誰かに抱かれたがるし、哲兄ぃは若頭がいなくなって忙しかったし、澪は放し飼い状態で好きなようにしてたなぁ。哲兄ぃはそんな澪を甘やかしていた。あいつも付かず離れずしながら哲兄ぃに甘えていた。そんな感じかな?」  聞けば、ちゃんと大検を受け予備校に通い、優秀な成績で司法試験に合格したと言う。仕事は出来る方だった。だけど容姿が禍して問題を起こし、扱いに困る人材だったらしい。  それでも二人はずっと繋がっていたのだ。ヤクザと関わっている事を隠し、一方で検事というエリートであり、または奔放にセックスを求めて彷徨う魔性を持て余していたのか。  普通では理解できない生き方でも、佳澄にはやはり共通する部分があり、いたたまれずに黙りこんだ。ただ違うのは、澪は積極的に体の関係を追い求めていた。佳澄は惰性のように、ただ拒まなかった。  どちらがいいとも悪いとも知れない。男に狂わされ、男を狂わせ、因縁のようにその輪廻から抜け出せなかったのは同じだ。  流されるだけの自分の方が惨めかもしれない。 「それでも上手くいっていたのですね?」 「まあな、おれにはよくわかんねぇけどよ。好き合っていたから別れなかったんだろうさ。哲兄ぃは澪が普通に生活できるように気を配っていたけど、手放す気もなかったと思うぜ」 「それがなぜ……」  加藤はまた、風を見る目をする。そこにいるみおにお伺いをたてているみたいに。  全てを話してもいいのか。お前はもういないのだからと。 「あいつはよ、運命の男に出会っちまったのよ。……な~んて言えば恰好がつくかな」
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