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「気になるのならまた、私の部屋へ来ればいい。今夜」
「卑怯者」
「卑怯で結構。君のそういう所が気に入ってるよ」
悔しそうに唇を噛む曽我を横目にして、その場を後にした。
彼を初めて抱いたのは、保護と言う名目で監禁した佳澄を慰める、パスタパーティーの夜だった。
彼の、佳澄に寄せる想いを利用して、脅した。見るからに軟派なゲイである吉本が、美しくも気弱な佳澄に手を出さないはずはないと思われたのは心外だったが、曽我は呆気ないほどにこの腕の中に堕ちてきた。
彼は彼なりに佳澄を守りたかったのだ。
確かに佳澄は男を惑わせる何かがあり、あのまま二人きりで過ごしていたら、正直何も起こらないで済むとは思えない。佳澄は誰にでも体を許す男だ。いくら澤田の大事にしている者であっても、思わぬ間違いはある。むしろそんな間違いを、吉本は平然と楽しめる。
そして、佳澄に手を出すなと凄んだ曽我が、あまりにも可愛かったのだ。
「だったら君がわたしの相手をしてくれよ」
吉本の言葉を本気で受け止めた曽我の、戸惑いの表情を今でも思い出す。
迷いと、諦めと、覚悟の混じった、眼鏡の奥の目。それでも決して逸らさずに、震えながら睨んできた。あの目を見るとゾクゾクする。
今夜も曽我は、大いなる葛藤と逡巡の果てに、必死で自分の気持ちに言い訳をしながら吉本の元へ来るだろう。佳澄がいないと知ったら、どんな表情を見せるだろうか。全てを教えてもいいが、それはまだ先の楽しみだ。少しずつ、少しずつ、絡め取ってやる。
そうやって身動きのできなくなった曽我は、きっとまた吉本を恨み、憎み、ギリギリとした想いをぶつけてくるに違いない。
「泣かせてやる」
吉本はほくそ笑み、大股で歩きながら白衣を翻す。
これくらいの楽しみがなくてはやってられない。愛人の奪い合いなど、考えてみればあまりにも滑稽だ。佳澄はきっと戻ってはこない。正当な方法では。
スタッフがバタバタと行き交う非常階段の隅で、ファイルに挟んだ報告書をまた、覗き見た。
水谷澪という男がどれほどの者かまだわからない。二度と関わり合いたくないだろうが、悪いが利用させてもらう。利用できる者を利用するのに、何のためらいもない吉本だ。面倒だと思うストレスは、曽我で埋めよう。
報告書に貼られている水谷澪の、冷えた美貌を見ながら「綺麗な男は何かと面倒なものさ」と、肩を揺らして笑った。
久しぶりに、じくりと骨が熱くなる。曽我との体の相性はいい。男を相手にするなど初めてだというのに、健気に体を開いたあの泣き顔がたまらない。
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