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 おそらくは女性経験も少ないだろう。吉本の手管にかかり、あり得ない快感に必死で耐えていた。あの声。あの肌。あの熱さ。  佳澄をだしにして、何度か呼びだした。一度だけ曽我は、狂いそうな頂点の果てに、自分でも気付かなかっただろう吐息の中で、佳澄を呼んだ。  その声で達きそうになったのは内緒だ。  曽我はもうすぐ、自分なしではいられない体になる。欲しいのは体だ。心はいらない。澤田も、哲郎も、いったい何を考えて人、ひとりを丸ごと抱えようとしているのか。思わず漏れ出た笑いに、通りかかりの若い看護師が、「ご機嫌ですね先生」と声をかけてきた。いつもきびきびと動く、はつらつとした青年だ。 「教授が退院して肩の荷が下りたからだよ」  にっこりと笑いかければ、爽やかな笑みが返って来た。  いつもであれば食指の動く、男らしい逞しさもある。だが今夜は曽我が来るのだ。ご機嫌にもなろうというものだ。  さりげなく肩にタッチして、赤らんだ若者の頬の若々しい肌艶に、少しばかり未練を残し、吉本は満足げに階段を上る。  男は体の欲望に弱い。哲郎と佳澄が体で繋がっているとしたら、あるいは付け入る隙もあるかもしれない。  今はそう、願うだけ。  曽我は夜8時を過ぎた頃にやってきた。差し入れのスナック菓子を二袋も手土産にするとは、いったいどれだけ佳澄を甘やかせたいんだと呆れそうになる。ここに佳澄はいないと言った途端、その菓子袋を投げつけられた。  慌てて部屋を飛び出ようとして、ドアノブのない玄関に気づき、「はぁ!?」と間抜けな声を出すのも、笑わせてくれる。  一般人を陥れるのは、なんてたやすい。あの哲郎が、佳澄を意のままに貶めるのも、さぞや面白いくらいに簡単だっただろう。 「騙したのか!」  睨まれる視線にワクワクしながら吉本はほくそ笑む。 「騙しちゃいないよ? 知りたければ来ればいいと言った。来てくれたから、佳澄ちゃんはいないと教えた。OK?」 「くそっ、開けろよここ!」 「おやおや、ドアノブが壊れちゃったみたいだねぇ」  後ろから近づくと、全身で緊張しているのが伝わってくる。  あれだけいい思いをさせているのだ。嫌でも思い出すだろう。逆らいようもなく乱れる自分と、拒絶しながら体が求める欲望を。 「もっと知りたいんだろう? 佳澄ちゃんのこと。教えてあげるよ」
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