神隠しと略取 1

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「すまん、すまん、だが怜奈、呑気なことを言っている(いとま)はない。こちらの方々のご家族のひとりが境内で行方不明になっておいでだ。わしら寺のものは境内とその周辺を探す。おまえは、町興しの若いものたちに連絡して、寺にきて協力するよう頼んでくれ」  その言葉を聞いたとたん、少女の表情が一瞬で硬直した。 「えっ? 行方不明? 光瑠璃寺でですか?」 「そうじゃ、ことの顛末を詳しく話している時間は惜しい。まずは若い者たちを集められるだけ集めてくれ。彼らには、寺で行方不明になった女性がいるから捜索に手を貸してほしいとだけ伝えてくれ。その方の容姿や特徴は、ここに着いた者から順番に詳しく教える、とな……」  それだけ言うと古武住職は一堂に礼をし、本堂へと消えていった。住職の背中を見つめながら、伸也は不安そうな表情を浮かべていた。怜奈と呼ばれた少女も一礼したのち、ジーンズの後ろポケットからスマートフォンを取り出し、仲間たちに連絡をとり始めた。  少女の瞳にも不安げな光が宿る。彼女はその小さな唇をぎゅっと噛みしめながら、スマートフォンを操作している。やがて電話がつながった相手に怜奈は速射砲のような言葉を浴びせ、「とにかく今すぐ来て!」と叫んだ。
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