神隠しと略取 1

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神隠しと略取 1

 横井麻美(よこいあさみ)の突然の失踪は謎に満ちていた。彼女をよく知る人たち、例えば彼女の家族は一様に失踪前の麻美には何ら変わった点はなかったと証言した。  彼女は小雨の降る初秋の山寺から、なんの前触れもなく消失した。光瑠璃寺(こうるりじ)とよばれるその山寺は東京都西部にある美鱒町の山の中腹にある。彼岸花が整然と咲き誇る美しい景観で有名な山寺だ。  山門へと続く石段の両側を華麗に紅く染める彼岸花の整列は、見るものを圧倒する。その寺の歴史は古く、真言宗に属する祈願所として建立されたのは室町時代末期の天正年間であるという。  麻美は光瑠璃寺の彼岸花が開花したことを知ると、彼女の家族とともに寺を訪れた。麻美の両親と祖母、そして麻美の弟と甥っ子という六人が光瑠璃寺参拝のメンバーだった。  麻美の弟、伸也が運転するバンに乗った六人は、小雨の降る9月15日の土曜日、寺を訪れた。一行が到着する三十分ほど前から降り出した小雨は夜半から大雨になった。しかし、麻美たちが光瑠璃寺に到着した午後二時過ぎの段階では、まだ小雨がぱらつく程度だった。
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