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「あー、びっくりしたよ。たまにあるよね。ほら、寝ててさ。急にビクッとなるやつ……あぁ、恥ずかしいなぁ、もう。見られちゃうなんて……」
ほっぺを両手で覆いながら、ほんとに恥ずかしそうな素振りで話すおじさん。
人形のような大きさの人間が、しかも学ランのおじさんが……実際に動いてしゃべるのを目の当たりにした僕は、正直引いていた……
「あっ、あの、ありますよね。僕もけっこうあるんですよ……」
「だよね、あるよねー! いやー、あるよねー!!」
なんだか話を合わせてしまったが、おじさんは喜んでいるし、よしとしよう……
悪そうな人でもないし、良かったなと思ったが、そういえば、おじさんの体は大丈夫なのだろうか。
しかも、おじさんはいつの間にか、人間の普通のサイズ感というか、僕とあまり変わらない大きさになっている。
「あの、さっきは、すみませんでした。僕、本で殴ってしまったみたいで……痛かったんじゃ……気絶させちゃったみたいだし……」
「んっ? そうだっけ?? いやー、最近は不眠症っていうのか、夜よく眠れてなかったからさ。今、めっちゃくちゃ調子いいわー! そうか、気絶してたのか。うんうん、いや、逆にありがとう」
そう言いながら、おじさんはそっと左手を僕に差し出す。
しゃぶられた親指はもう、光ってはいなかった。乾いたのだろうか……
「そ、そうですか……あー、よかったなー」
全く感情のない声で僕は言うと、おじさんの手から少し視線を外し、自分の手を出してみた。
おじさんは満面の笑みでしっかりと握った。そして、うんうんと嬉しそうに上下にふりたくる。
僕はこういう時、どうしても断れない。断り方が全然浮かんでこないのだ。
だったらいっそのこと、嫌でも、やりたくなくても、相手が望むようにその場をしのいだ方がものすごく楽なのだ。いつでもそうだった。
自分のやりたいことを考えて行動するより、こうしてその場その場をやり過ごして楽してきたから、今の僕は、僕はこんななんだろうな……
なんて、まさかこんなところで再確認させられるなんて……と僕は無性に悲しいような複雑な気持ちなった。
そうではあるけれども、目の前にいる学ランで羽を背負い、何故か小さな人形サイズから普通の大きさになった、服装以外は見た目普通のおじさんは、とっても嬉しそうに僕の手をぶんぶんしている。
まぁ、いいかな……といつものように済ませてしまう、僕なのだった。
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