第1話 僕、本のすき間からピンクの世界へ行ってしまう。

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 僕はまず、中古のゲームソフトのコーナーから順番に、丁寧にねり歩いていく。DVD、CD、マンガ本……そして文庫本のコーナーにやってきたのだ。  僕は中学の頃から今の家に住んでいる。  そう、実家暮らしなのだが、この場で同級生や知り合いに会ったことはない。  やはり、平日のこの時間帯には働き盛りの者はなかなか来られないだろうし、そもそもみんな実家を出、この地域を去っていったのだろう。    会いたくはない、誰にも、決して。  だが、それがまた自分を苦しめているのも事実だった。    小説の文庫本コーナーを後にし、今度は単行本のコーナーへやってきた。  当たり前に、新刊本が並べられている書店とは違い、ここでは、誰かに最低一度は購入された本たちが並んでいる。  ちゃんと読まれたのかどうかはわからない。    だが、人に選ばれ、購入されたことがあるという点では、いくら古くても、新刊本より格が上なのかもしれない。そういう意味で、僕はここの本のコーナーが大好きだ。    時代の流行なのだろうか。最近は、自己啓発や占いの類の本が急に増えてきた気がする。  以前は見かけた覚えのない、スピリチュアルやオカルトと思い切り書かれたプラスティックの板が目につくように貼られ、一つのジャンルとして分けられていた。    ひと昔前より、精神的に頼れるものを探しがちな人が増えたのだろうか。  なんだ、みんな自分と変わらないじゃないか、みんな不安なんじゃないか……    そんなことをこの棚の前で思うとき、僕は一瞬だけ安堵する。本当に一瞬だけ。    自己啓発や占いの本は何度か読んだことがある。そしてその都度、裏切られた気持ちになった。  
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