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さっきの紙、人の名前がフルネームで書いてあったような……気になってしまった。
あの名前、もしかしたら、この本の前の所有者のものかもしれない。
いったいどんな人が購入し、ここで売ったのだろうか。名前の他にもいろいろ何か書いてあったようだし……気になる。
再び、僕は“よいこの怪談全集:恐怖!前歯に青のり……8巻”を手に取った。勝手に開かれるページをドキドキしながらのぞく。
あっ、これ……
挟まれている紙は四つ折りにされているようで、がっつり名前と生年月日が書かれていた。
さらに、よく見るとそれは健康診断の結果の用紙のようで、病院名と医師の名前まで書かれていた。
僕は用紙に全く触れていないが、偶然にも、それらが見える位置にたたまれ、挟まっていたのだ。
見てはいけないものを見てしまった……そんな気がして、僕は何も見なかったことにした。
少々慌てながら、でもやはり紙はさわらないように注意して、そっと本を閉じ、さっきと同じように、自分の頭の高さとちょうどくらいのその位置に本を戻そうとした。その時だった。
「あっ……!!!」
思わずビクッ、と体が後ろになりながら、小さく声が出た。
本を出したその隙間が、淡いピンク色で終わりが見えず、さらに風がこちらに向かって吹いてくる。
甘いような、そうでもないような今まで嗅いだことのない不思議な匂いまでする。
本の隙間の分だけが入り口で、その向こうに別の世界が広がっているような気がした。
「えっ、えっ? 何……」
前後を棚にふさがれた空間で、左右に誰かこれを見ている人はいないかと探す。
だが、誰もいない。
もう一度前を向いた時、ぐっと人間の手がまっすぐに伸びてきて、僕の首は思いっきりつかまれた。
「ぐっ、うっ、う……」
息ができない。
僕はつかまれた首から全身を持ち上げられた。
そして、本の隙間からシュルシュルと取り込まれてしまうのを感じながら、意識を失っていくのだった。
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