第2話 僕、本のすき間からピンクの世界へ行ってしまう。(後編)

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   意味がわからなさ過ぎて怖い。    ここがどこなのか、あんまんに口があるのか、いろんな種類の、思いつく限りの不安が瞬間に駆け巡る…… 「う、うっ…ぅわあぁあーー」 「ワンワンワンッ!!!」  僕が叫ぶと、あんまんは犬のように吠え、威嚇してきた。かなりきれいな歯並びで…… 「うわぁー、あぁー!! 助け……」  叫び続ける僕にあんまんは吠えるのをやめ、そっと近づいてきた。  そして僕の顔の前までやってくると、そのセクシーな唇でチュッと…… 「えっ?」  あんまんは一度離れ、僕の顔を見つめるような間をおくと、またチュッとキスしてきた。  今まで感じたことのないほどに、やわらかい感触だ。  思わず僕も静かになり、次第にあんまんの思う通りなる。  軽かったチュッはどんどん濃いものになっていき、僕もまんざらではなく求め始めていた……  彼女の歯の奥からは甘い香り、それでいて決して甘すぎない、あんこの味がする……  おいしい、おいしいと思っているうちに、僕はすっかり彼女、あんまんのワナにはまっていた。  いつの間にか、口から頭、背中とリュック、腕、足……彼女の口からどんどん食べられていた。  僕は彼女の中にしっぽり、入っていってしまった。  すっかり僕は気持ちよくなっていて、目をつぶっており、全く気が付かなかった。  周りが暗くなった気がして、目を開けた時にはもうすでに、全身逆さになっていて、頭を下にした状態で、あんこの中に埋もれていた。  あぁ、ここはあんまんの中で、あんこの中だ……  それだけは何故かすんなり悟った。  せっかくだから、あんこ、食べておこうかな……  と思ったとき、バンッと底が抜けたようになって、僕はあんこ共々落下する。  まるで遊園地の絶叫マシンに乗っているような、そして、そうだったらどんなに良かっただろう……  そんなことを思いながら、僕はまたゆっくりと意識を失っていった。  どれくらい経ったのだろうか。背中の痛みで目が覚めた。  あぁ、夢だったのか……  と思ったが、どうやら僕はリュックを背負ったまま、外で大の字になって寝ているらしかった。
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