第2話 僕、本のすき間からピンクの世界へ行ってしまう。(後編)

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 今まっすぐに見えている空は、淡いピンク色だ。建物など一つもない。  ただただ、淡いピンク色の空がどこまでも広がっている。  ぼんやりと半身を起こす。  地面には、シロツメ草や仏の座、タンポポなどなど……自分が生きてきた中で目にした野草・雑草の数々が季節感関係なく、咲き乱れている。  緑、白、ピンク、黄色……様々な色が入り乱れている。  このカラフルな地面と淡いピンク色の空だけが、永遠に二層になって続いている。  不思議ではあるが、この見たこともない美しい風景に、僕は癒されていた。  何も考えていない。不安もイライラもない、ついでに幸せもない。  何もない。こんなことは生まれて初めてのことだろう。穏やかだ。  ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん……  なんの前触れもなく、ハエかカメムシか、そのような虫が僕の近くを飛んでいるようで、なんとも嫌な羽音がしだした。  意識せずとも、自然と手が追い払う仕草をとる。  手に持っていたあの本が、虫に思い切り当たったようで、パシッという感触のあと、羽音はやんだ。  虫が落ちたであろう場所に目をやる。  すると、すぐそこに黒いビニール人形のようなものが落ちていた。
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