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気になって、よくよく見てみるとそれは、生きている、髪の薄いおじさんだった。
黒い学生服を着、ゲタをはき、腰に手ぬぐいをぶら下げ、レンズの大きな細いフレームのメガネをかけていた。
最初は人形だと思ったが、スーッ、スーッと呼吸に合わせて背中と胸が膨らんでいる。
見た目はおじさんだが、まだ何も知らない童話に出てくる子供のように、すやすやと眠っている。
しゃぶる左手の親指がツバで輝いているのを、僕は見なかったことにした。
おじさんにはもう一つ気になる点があった。
羽を背負っているのだ。それは生えているのではない。
何かのヒモを使って、どうやったのか背中にくくり付けているようだ。
僕はこの変な生き物をなぐってしまったのか……
なぐった本の表紙を確認すると、特に変な汁もついていないので、ほっとする。
と同時に、この学ランのおじさんに申し訳ないことをしたかな、とじわじわ思い始めた。
どれくらいの時間がたっただろうか。僕はぼおっとおじさんを眺め続けていた。おじさんは変わらずスースーと寝息を立て眠っていた。
だが突然、おじさんはビクッとなって、ガバッと身を起こしながら
「わぁっ!!!」
と叫ぶので、僕も同調したようになって
「わぁっ!!!」
と、声を上げた。
おじさんは、ぎょろっとした眼をさらに大きくして、不安そうに周りをキョロキョロ見ている。
「何だ……何だ……」
僕は小声でつぶやきながら、おじさんがしているのと同じようにキョロキョロする。
おじさんは次第に落ち着きを取り戻したようで、まっすぐ僕を見た。
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