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第1話 僕、本のすき間からピンクの世界へ行ってしまう。
週の真ん中、平日水曜日、午後二時過ぎ。
官能小説のコーナーをうろうろしているおじさんや時代小説を吟味するおじさんにまぎれ、僕もまた適当に文庫本を手に取る。
読んでいるとはとても言えない。見ているのか見えているのか、はたまた何も見えてもいないのか……
なんともはっきりしない頭でなんとはなくページをめくる。
ただ突っ立って本を眺めているだけなのに、なんだかとても疲れる。そしてそれだけなのに、今日は何か一つやり遂げたような気持ちになる。
だから僕は今日もここへ来た。だいたい三日に一度は来るように心がけている。
家からは歩いて五分ほどで来られるし、ずっと部屋にいるよりはずっといいだろうと勝手に思っている。
「ゴホン、ゴホン、ゲホッ、ゲ、グゥエッゲェエ……えっくしょん!!」
二つ向こうのマンガの棚で、おじさんが咳の続きにくしゃみをする。店内に大きく響き渡る。
この時間帯はとてもいい。
仕事も子育てもひと通り終了したと思われるおじさんたちが時間をうめにやってくる、そんな時間帯。昼十二時くらいはサラーリーマン風の人が多いし、夕方になれば学生たちがたくさんやってくる。
平日午後二時頃、この時間はおじさんたちがほとんどで、若い人はほとんどなく、いたとしても、目当てのものを探し、ちょっとマンガを立ち読みして、購入し、わりとすぐに帰ってしまう。
そういうわけで僕にとってはなかなか平和なのだ。
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