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僕は妻より先に死ぬつもりだった。僕の方が5つも年上なんだから。なのに、妻の方が先に逝ってしまった。僕が死ぬ一日前に死にたいと言っていた君。寂しがり屋の君は、僕に置いていかれることを本当に嫌がっていたね。
だけど、知らなかっただろう。僕だって君と同じくらい寂しがり屋なんだ。君には悪いけど、絶対に僕の方が先に逝くと思って安心していたんだ。僕だって君に置いていかれることは絶対に嫌だったんだ。
君はきっと判っていたんだろう。僕より僕のことに詳しい君だもの。君を喪ったあとの僕がいかに駄目な人間になるかを。だから自分の好きな姿になって、戻ってきてくれたんだね。真実がどうあれ、君の言葉が今の僕の支えだよ。
そんなことをつらつらと話しながら黒猫を膝に乗せ、背を撫でると妻はいつも小さく返事をしてくれる。
ねぇ、今度こそ、僕は君に置いていかれずに済むのかな。勝手な話しだけど、僕は二度も君に置いていかれるのは嫌なんだ。
僕が逝ったあと、君が寂しくないように、君のことは子どもたちにお願いしておくから。
そうして、もし叶うなら──お願いを聞いてもらえるのなら。生まれ変わったら、また僕と出会ってくれないかな。僕は君なしでは生きていられないんだ。
そう言うと、妻は尻尾で僕の手を優しく叩いてくる。二又に分かれた珍しい尻尾で。
まるで──はいはい、判ったわよ。全くしょうがないひとね──そう、妻が良く言っていたように。
耳に良く馴染んでいた、妻の声が聞こえた気がした────……
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