color.1《突然の告白》

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燐と龍の視線を感じ、黒田は諦め半分、感心半分、といったように笑いつつ、運ばれてきたアイスコーヒーを(すす)った。 「……いえ、楽しいっすよ。俺ももう2。ヤンキーじゃなくて、普通の友達も沢山できて。楽しいんすけど……」 言葉を濁す黒田。龍はふと、率直に思った事を口に出す。 「あれ?お前2年なのか?留年しなかったのかよ」 「いやいやいや、する訳ないでしょ!ウチのオカンどんだけ厳しいか知ってる癖に!」 想像するだけで寒気が走ったのか、ぶるりと身を震わせながら、黒田は戦々恐々とした顔で首を横に振った。 「へぇ、ちゃんと真面目にやってんだ。んじゃ、悩み事ってやっぱりあの?」 正面の燐が、にやりと茶化すような微笑みを浮かべる。その割に目はそれ程笑っていない事に龍は気が付いていたが、そこに突っ込むと返り討ちが怖い。だから、不得手な話は全て任せてしまおうと黙って手元のメニュー表に視線を落とした。 黒田は、ソワソワと落ち着かなさそうに脚を動かして組んだり下ろしたりを繰り返す。その度にテーブルが僅かに揺れるので、龍は若干イラつきつつ、それでも彼が話し始めるのを待った。いや、待とうとした。 「早く言え。……男に告白されたって、ホントか?」 (何分待たせる気だ、コイツは) 龍は、うなだれる黒田の頭を掴み、無理やり顔を上げさせた。 「ちょ、痛っ……食い込んでるって!」 ギブギブッと悲鳴を上げる黒田の根性の無さに舌打ちしつつ、龍はその手を離した。メリメリと音がしたのは、気のせいだ。 「あ?で、何だよ」 「いや……自分で言ってたじゃないっスか。__お、男に告白されたんスよ、俺」 黒田は、口元を手で覆いながら二人から目を逸らす。隠しているつもりだろうが、りんごのように赤く染まった頬は隠しきれていない。 照れてるのか?と思った龍は、何故か自分までむず痒さを憶えた。他人事とは思えない辺り、水城を恨むしかないのだろうが。 せっせと口にパフェを運んでいた燐が、その手を止め、ん?と龍の背後に視線を投げる。 「どうかしたか?燐」 「……ううんっ、なんでもないっ。それで?男に告白されたってだれだれ?まさか、生徒会長とか__」 多分、本当に場を和ます為だけにそう言ったのだと、龍は思う。だから、まさか__と笑い飛ばそうとした。……黒田が、ギョッとした顔さえしなければ。 黒田は、半泣きになりながら顔を両手で覆って、その場に崩れるように俯いてしまった。……まずい、コイツくそメンタル弱いんだった。龍と燐が、同時にそう思った時にはもう遅く、殻に閉じこもるように口を開かなくなる。 「わ、分かった……黒田。言わなくて良い、良いから、せめてその__」 「経緯とかだけでも。ね、龍?」 「そ、そうだ、経緯!誰に告白されたとかは良いから、何で……」 __何で、告白してきたか。そう聞いた途端、黒田はとうとう泣き出してしまった。 「ううっ……。俺、アイツに脅されてたんですっ……なのにっ、なのにっ……」 「ちょ、おい、黒田!?分かったから、泣くなって!」 男の泣き声など、聞いていて気持ちいいものではない。それに、忘れてはいけない。ここはファミレスである。周囲にはそれなりに客がいて、何事かとチラチラとこちらに視線を寄越す。 傍から見れば、やや強面の男子と可愛らしい男子が、頬に傷のある標準より少し上のイケメンを泣かせているという奇妙な図。いかん、泣きたくなってきたと、龍は思った。 「と、取り敢えずここじゃない所に移動しようぜ……」 「あっ、じゃあリュウの家にしよ。ボクのとこよりは近いし」 燐が妙案だとばかりに頷く。勝手に決められた龍はやや不満に思ったけれど、別に断る理由が見つからなかったので賛同した。 燐に会計を頼み、立ち上がる。泣きっ面を他の人に見られては男のプライドも何もあったものでは無いと思うので、ここに来るまでに黒田が被っていた帽子を顔が見えない程度に深く被せると、抵抗しないその体をズルズルと引っ張って立ち上がらせた。 「ほら、行くぞ黒田」 「ううっ……グスッ……もう、怖いんですよアイツ。喧嘩は強いし、勉強はできるしっ……」 「あーはいはい。家着いたら聞いてやるから」 適当に宥めつつ、会計を済ませた燐と合流してから、三人はファミレスを出た。最後の最後まで他の客や店員の、興味津々な目が痛かった。
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