color.1《突然の告白》

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「お邪魔しました、龍さん」 ぺこりと頭を下げる黒田に、おう、と返事をしながら、龍はカバンに入ったままだったスマホから着信音が鳴り響いている事に気が付いた。 誰だ、と眉をひそめつつ、気遣うようにこちらを見た黒田に先に玄関に行くようにジェスチャーを送ってから、スマホの画面を見た。 (……?燐か) 「どうした?バイト遅れる__」 『……いい?龍。今、君の家に来る人がいるけど、絶対に扉開けちゃダメだよ?てか、黒田だけ放り出せばいいから』 随分と焦ったように早口でそう告げられ、龍は首を傾げた。黒田が玄関に向かうのを確認しながら、燐に聞き直そうとし__ __ガンッ! 「うわっ!?」 玄関の方から、耳を(つんざ)くような扉の音と、黒田の悲鳴が聞こえてくる。 「は?何だそれっ……おい何やってんだ黒田!__チッ、切るぞ、燐。早くバイト行けよ!」 取り敢えず適当に会話を流し、燐に小言を言われる前に通話を終わらせた。龍が物音のした玄関へと向かうと、そこには扉の前で固まり動かない黒田と__その向こう側に、照明に照らされて光り輝く白っぽい金髪男が立っていた。 腕を組み、にこにこと笑うその男は、黒田と同じ制服を着ている。 「……あ、あのー?」 さっきの騒音は、扉が壁にぶつかった音だ。微妙にへこんでいる。__龍は、恐る恐ると言った感じで表情を崩さないその人に、声をかけた。 「し、白川……っ」 黒田は、またもや半泣き状態で、龍の方を助けを求めるかのように振り向く。 「__黒田さんを返して貰っても良いですか?……扉は弁償しますので」 白川は無遠慮にもずかずかと玄関へ入ってくると、龍に(すが)るように後ろに隠れた黒田の腕を掴む。 「__行きますよ、黒田さん」 「おい、待てよ」 抵抗しなかった黒田を引き連れ、出ていこうとした白川を、龍は引き止めた。威圧をかけるように白川を睨みつけ、じろりと黒田と見比べる。白川は大抵の人が恐れ、黒田でさえそのオーラに身を震わせる程の龍のその睨みにも、ほとんど動じず、面倒くさそうに振り向く。グレーがかった深い青色の瞳が、初めて龍を視界に捉えたかのように焦点を合わせた。思わず龍でさえ体に力が入るほど、彼の目は冷たく全てを見下しているようだ。 「何か?」 「お前、本当に黒田の事好きなのかよ」 「龍さんっ……」 俯き、白川にされるがままだった黒田が、慌てたように龍を止めようとするのを、手で制して黙らせる。龍は、正面から対抗するように白川を見据えた。 「__黒田の事好きなら、何でそう乱雑なんだよ。ダチの家に遊びに来てるだけなのに、無理やり連れ帰るとかガキかよ。……信じて待ってやるくらい、できねぇのか」 沈黙。__白川は無気力だったその目を、龍の全身を眺めるように動かした。一言も発さず、ただ何かを探すように龍を一瞥(いちべつ)し、そして口の端に冷たい笑みを浮かべる。氷のように透き通って、優しくはない。__偽物のような、微笑み。 「……あなたには分からないでしょうね。僕が、どれだけ黒田さんを愛しているかなんて。、黒田さんのお友達」 拒絶。__柔らかな物腰と口調に対して、白川は龍との間に壁を作ったようだった。次の瞬間には、もう彼の瞳に龍は映っておらず、オタオタと慌てた様子の黒田の腕を引っ張って、家を出て行った。 パタンと閉まったドアの前で、龍は一人立ち尽くした。……何が、正解だったのか? 「俺には分からない……か。面倒くせえな」 ガシガシと、見つからない答えに苛立つように髪をかきむしる。__今日は、あまりにも平穏を揺るがす出来事が多すぎた。 (__あー、明日の学校、水城に会いたくねぇなぁ……) 龍は、ふと彼の事を思い出して気が滅入る。白川にしろ、水城にしろ、どうしてこう他人の気持ちを考えられないのか。 迷惑極まりない彼らの行動に些か腹を立てながら、龍は一人、部屋に戻った。
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