Color.2《キッカケ》

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不自然に話を逸らした燐に半ば苛立ちながら龍は、なら、と声を上げた。 「あそこだな」 「……あそこ?」 嫌な予感がしたのか、顔を引き()らせた燐にお構いなく、龍はこくりと頷く。 「図書館に決まってんだろ?」 「……それ、遊びじゃなくない?」 「だって俺、お前が勉強してる所見た事ないんだが?」 龍が食い下がると、燐は図星をつかれたようにうっ……と唸る。 「今日テスト終わったばっかじゃん」 「それはそうだけど、やっておいて損は無いぞ?」 平然と言いのけると、燐は、はあっとため息をついた。今の龍を他の人に見せても、中学時代は不良をまとめる番長でした、なんて信じてもらえなさそうだ。最早、ただのガリ勉優等生である。 「あー、分かった分かった。もう、ボク今日は他の人に遊んでもらうから!あーあ、リュウはボクより勉強が好きなんだもんねぇ」 ツンっとそっぽを向く。……もちろんわざとだけれど、龍は騙されやすい。 「なっ……そこまで言ってないだろ!?……チッ、分かったよ、どこ行きてぇんだ?」 (ちょっろ) 口に出したら殺されるから絶対言わないけど、燐は内心で笑った。オタオタと燐の機嫌を取ろうとしてくるのが、燐からしてみれば面白くて仕方がない。すっかり気分が良くなった燐が、ゲーセンに行こう、と言おうとしたが、 「あ、あの……」 龍と燐に、遠慮がちに女子生徒が声をかけてきた。燐は話した事があるけど、どちらかと言えば大人しいタイプで、龍に対してビクビクと怖がっている。助けを求めるように燐の方を見てきたが、残念、燐には彼女の気持ちを考えるより話を遮られた苛立ちが勝り、やや冷たい視線を向けた。 「……なぁに?」 努めて明るい声を出すと、その女子生徒は少し落ち着きつつ、早口で告げた。龍に対して。 「水城先生が、青木君を呼んでたよ。数学準備室に来るようにって」 (よし、落ち着け、俺) 龍は自分自身を落ち着かせるように心の中で唱えると、意を決してその扉をノックした。 中から返事が聞こえ、そっと扉を開けて__滑り込むようにして入室し、さっと閉める。 「__来ないかと思ってた」 穏やかな顔で、水城はこちらを向いた。龍が扉の前で固まったように動かなくなると、安心させるためか小さく首を振る。 「……何もしないよ、龍。今日は、改めて君に話したい事があって」 座って、と差し出されたのは、あの時無理やり龍を押し倒したソファじゃなくて、水城の座っている椅子からテーブルを挟んで正面にある背もたれ付きの椅子。__何故か、可愛らしい猫柄のブランケットが背もたれに掛かっている。 恐る恐る、といった感じで龍が座るのを、水城はずっと優しげな瞳で眺めていた。 「……それで、俺に話って、何ですか?」 龍は、固く強ばった自分の声を聞きながら、水城よりやや手前のテーブルに視線を落とす。水城を直視しながら、まともに会話をする自信が無かった。 水城は、僅かに目を伏せた。切れ長の目はその何気無い動作だけでも、無駄にカッコイイ。思わず見惚れた龍は、違う違うと頭を振りかぶる。断じて、カッコイイとか思ってない。……相手は自分を襲ってきた男だぞ!?と自分に言い聞かせる。 「龍。__ごめんな」
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