Color.2《キッカケ》

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「分かんねぇよ__何で、俺なんか。何で、お前みたいなイケメンで何でもできるような奴が、俺みたいな屑を好きなんだよ。……ああ、もしかして昔の俺はこんな奴じゃなかったのか?真面目で、優等生みたいな奴だったのかよ」 声が震える。それを聞いて何になるのかは分からないし、龍は水城に頷いて欲しいような欲しくないような、何とも言えない感覚に顔を歪ませた。 「真面目だったよ、すごく。俺からすれば、お前は__龍は誰よりも優しくて、かっこいい奴だった」 「っ……じゃあ、今の俺を見て失望しただろ?__お前の好きだった俺と違って、莫迦で、体も弱くて……」 自分で言って、惨めな気持ちになった。心にぽっかりと穴が空いたように、ただ胸が苦しい。龍は、俯いた。空っぽの自分を、これ程までに嫌いだと思った事は無かった。 (何で……忘れたんだよ) 「__失望なんかしてない。何も変わってないよ。……お前は何も、変わってない」 「変わったに決まってんだろ!?……っ、頼むから__頼むから、もう、俺を好きなんて言わないでくれ。俺には……あんたに好きって言って貰えるような資格なんて無いんだ」  資格なんて無い。水城は、中学時代の自分を知らないだろう。言ったところで、引かれて失望されるのがオチだ。__龍の中学時代なんて、誰かに褒められるようなものではないのだから。 「…っ、龍」  水城の手が、体が動く気配がした。ちょっとずつ、龍に近づいてくる。やめてくれ。そう叫びたかった。叫べなかった。 「もし、嫌だったら__軽蔑していい。これで終わりにする。でも」  もう、水城の手が止まる事は無かった。驚き、再び体を強張らせた龍を少しだけ寂しげに見つめた後…、そっと、龍の両頬に両手を持っていく。龍が彼にしたように、けれど優しく包み込むように。 「__っ!?」  懐かしい香りが龍を包み込み…次の瞬間、彼の唇は塞がれていた。甘い匂い。男のくせに滑らかな唇で、力強いキスをしてくる。龍の視界が、水城の切なげな瞳で埋め尽くされる。  初めは抵抗するように水城の胸元を押し返そうとした龍の両手から、徐々に力が抜けていく。呼吸の仕方さえ忘れてしまうような、長い__けれど刹那の時間。窓から差し込む夕陽が、二人を淡い蜃気楼のように映し出す。 「んっ……み、ずしろ……」  龍が、苦しげに小さく息を漏らしながら水城の肩に触れると、彼の顔は離れていく。柔らかい余韻を、龍の半開きの唇に残したまま。 「__嫌、だった?」  ただ、一言そう聞かれた。ちょっとだけ首を傾げて、今にも泣きそうに瞳を歪めて。座ったままの龍に寄りかかるように置かれた手が、ぎゅっと力強く握り締められる。龍は、混乱して息を詰まらせた。 (嫌、なんかじゃない…)  胸が苦しい。鼓動が、バクバクと頭に響く。全身の血が、何かを求めるように滾っていく。腹から胸、胸から頭まで、熱湯を浴びたかのように熱を帯びて、赤く染まっているのが分かった。 「__じゃない」 「……?」 「好き、なんかじゃない……はず、なのに」
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