Color.2《キッカケ》

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「__ばぁか。なに、乙女みたいな顔しちゃってんの?」 「……っ!?」 「ボクは確かにリュウのこと好きだけど。安心して?キミが悩むような事なんて無いからさ。ボクの『好き』は水城の『好き』とは違うよ」 あっという間に、燐の顔が離れていく。柔らかな香りを残したまま、燐は猫みたいな瞳をさらに細めて小さく笑った。 「もう今日は寝ちゃお?明日は学校もあるんだしさ。……寝れないんだったら、ボクが添い寝してあげようか?」 「それは、いらない……」 「だろうと思ったけど!言い方っ!!」 ビシッとツッコミを入れる燐。むうっと頬を膨らませる彼の頭に、龍は苦笑しながら手を置いた。そのままわしゃわしゃと掻き乱してやるが、燐はなすがままにされている。 __いつもなら不満を垂れるのに、彼なりに気を使ってくれているらしい。 「……わりぃ、変な事言ったな」 「__ん。ボクは龍の一番のダチだからね」 そう言う燐の表情は底抜けに明るかった。いつもと同じように笑みを浮かべる彼に安心しつつ、龍の頭にはふとあの時の事が過ぎる。 『__せめて、悪足掻きくらいはさせてね』 あれは、きっと嘘じゃない。切実で、悲しみのこもった声が何故か今の燐とピッタリと重なる。 「燐」 「なぁに?」 「お前、俺の事…………いや、やっぱ何でもない」 「?分かったー」 やや不思議そうな顔をしている燐を見て、それ以上の言葉は出てこなかった。ずっと友人として共に過ごし、そして誰より信頼できる燐を、信じ続けていたかった。 少しずつ落ち着いてきた龍には、その気の緩みからかどっと体の疲労が伝わってきた。徐々に微睡みに落ちていくさなか、龍の隣で佇む燐がそっと微笑むのが見えた。 「おやすみ。悪い夢なんて忘れちゃえばいいんだよ。大丈夫……ボクはどっかに行ったりしないからさ……」 細い指で頭を撫でてくる。その温もりに安心するように、龍は目を閉じた。 「ん……」 カーテンの隙間から溢れる光で、龍は目を覚ました。 よく寝た、とは言い難いが昨日よりは幾らかマシだった。けれど、今日もまた学校に行って水城に会うとなると、些か気が重い。 テーブルの上には、燐の筆跡だと思われる女子のような丸文字が書かれた紙切れが置いてあった。 『今日は無理しちゃダメだよ。もし辛かったら休んでもいいからね?龍……大事な話があるんだけど、もし今日来れたら昼休みに屋上で待ってる__燐より』 龍はそれを読み切った後、手で握りしめた。体はだるかったが、それでも燐の話の方が気になる。__喝を入れるように両頬を叩き、学校に行く支度を始めた。
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