Color.2《キッカケ》

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いつの頃からか、そんなふうに後悔の念だけが心の中を渦巻いていた。自分が誰だったのかも、誰といたのかも、何をして、どんな思い出を秘めていたのかさえ分からなくて。ただ、その空っぽの穴を埋める方法が見つからなくて。 だけど、一つだけ気づいてしまった。 __全てぶっ壊して、塗り潰してしまえば楽になる。 リーダー格の男子生徒を殴った時、龍を押さえつけていたが外れた。臭いものに蓋をするように、目を背けてきたどす黒い感情を閉じ込めていたはずの鍵が吹っ飛んでぶっ壊れた。 そう分かってからは、毎日喧嘩に明け暮れた。手始めに自分を侮辱したクラスメイトの男子。そして、いわゆる不良と呼ばれる奴ら。とにかく、負けても勝っても喧嘩をしている間だけは全部忘れられた。 元々クラスで腫れ物扱いされていた龍は、ますます距離を置かれるようになったけれど、もうそんなのどうでも良いと思った。学校なんて、所詮は偽善者の教師と人の不幸が大好きなガキの集まりだと分かりきっていたから。 __それは多分、今のように机に突っ伏して寝ていた時だ。とは言っても時間は放課後で、気分は最悪だった。高校生を相手にしていたのだが、楽しさの欠片もない。弱すぎて、運動の足しにもならなくてイラついていたのだ。 『__リュウくーん、ボクとあっそびましょ!』 妙に甲高い、けれど女にしては太めの猫なで声が頭上に降り掛かってきて、龍は嫌悪感で眉をひそめながら顔を上げた。曲がりなりにも学校では最強な自分に上級生でさえタメ口を使う事はないのに、まして名前に君付け?舐めてんのか潰すぞと意気込んで声の主を視界に捉えると__ 『あっ、起きた?ふふっ、ひっどいツラ。ボク、キミとお友達になりたいなー、なんてね?』 龍の顔を覗きこんで、挑発するように鮮やかに笑った。目に眩しいほどの赤髪に、無数のピアスをつけた__でも到底喧嘩が強そうには見えない男子。龍は、ますます不機嫌になって低く唸った。 『あ?俺とやんのかよ』 威嚇というよりは相手にするつもりはないという意味で放った言葉だったが、彼はこてんと首を傾げてヘラヘラと笑い続ける。 『うんっ!キミ強いんでしょっ?ボクとケンカしよっ!』 ……妙にイキってやがる。 一度潰せばもう耳障りな声を聞かなくてもいいと思った龍は、大きくため息をついて立ち上がった。 『__一度だけだぞ』 龍がそう返すと、ワンコが尻尾を振るみたいに、彼は嬉しそうに笑った。 あのケンカの勝敗は確か__。
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