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「それで……リュウは何が知りたいの?」
コンクリートの床に無造作に腰を下ろして緩い姿勢をとった燐の横に、龍も座った。燐は暑そうにパタパタとワイシャツの襟で仰ぎながら、のんびりとした口調で聞いてくる。
「………好き、なのか」
ボソリと呟いた言葉に、燐の目が大きく見開かれたのが分かった。貫いていた笑顔が一瞬歪んだように崩れ、そしてすぐにいつもの胡散臭い笑みに戻っていく。
「嘘は……ついちゃダメ?」
困ったように眉を下げる燐。龍を映し出す大きな双眸はどこか寂しさと何かが混ざり合っているようで、それでも龍は首を横に振った。
「ダメだ。約束だろ」
はっきりと告げると、いよいよ燐は諦めたように口を歪ませる。放り投げた体をおもむろに起こし、腕で体を抱え込むように体育座りをして顔を埋ませた。
「……分かんない」
肌をくすぐるほどの弱々しいそよ風の中でさえ、耳を澄まさないと聞こえないくらい小さな声で呟く。
「嘘だよ、全部。ううん、本当は嘘なんかじゃないって分かってる……つもりだった」
龍はただ静かに燐の言葉に耳を傾け続けた。燐にしてはテンポ感も歯切れも悪い話し方に、じっと身を寄せながら。
「ボクが初めてキミを……リュウを見つけたのは、キミがボクを知るよりずっと前だったんだ」
燐は、その長いまつ毛の奥にある瞳を懐かしそうに細めた。見えない何かを、探すように。そうしてからようやく、ぽろぽろと言葉を紡ぎ始めた。
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