color.1《突然の告白》

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color.1《突然の告白》

青木 龍。A型、15歳。得意教科は国語、苦手教科は数学。長所はケンカが強い事、短所は人に騙されやすい事。 そんな彼は今、絶賛迷子中だった。……おかしい、ついさっきまで一緒に行動していたがいない。昨日の入学式で来たはずなのに、教室はどこだ。 「__どこ行きやがった、あのバカヤロウ」 かれこれ20分近く校舎内をさまよっているが、未だに誰とも出会わなかった。 (うっ……何か、気持ち悪くなってきた) 龍は、ズルズルと廊下の壁にもたれた。 頭痛と吐き気、何度繰り返してもやはり慣れることはない。後遺症……だとは言われたが、正直記憶が無いのだからピンと来ない。 __キーンコーンカーンコーン…… チャイムが、閑散とした廊下に響きわたる。無駄に長い廊下は、朝日でいっそ清々しいほどに輝いていた。 「……っ、早く教室向かわねえと」 立ち上がろうとしたが、上手くバランスが取れない。平衡感覚が狂い、床に倒れ込みそうになる。 (……あ、やばい) そう思った時にはもう遅くて、視界はぐにゃりと歪んだ。力が抜け、床が急速に近づいてくる__。 「……っおい、大丈夫か!?」 しかし、倒れ込みそうだった龍の体は、誰かの手によって止められた。その人に寄りかかるようにして龍が何とか体を起こすと、その人は安心したように息をこぼした。 「どうした、こっちの棟は特別教室しか無いぞ?」 「……ああ、道に迷って__」 見た感じ生徒ではない。セミロングの柔らかな黒髪は丁寧に整えられ、黒の品の良いスーツがよく似合っている。切れ長の目と筋の通った鼻、下手したらそこらの女より滑らかな唇の絶妙な配置は、見る者を虜にする。 (……まあ、俺男だから関係ないけどな) 龍からしてみれば、あ、何かイケメン、苦手だなぁ。くらいのものだ。スーツという事は保護者か、でもここがどこか知っているような素振りからして__と、考え事をしていたのが良くなかった。 「……先生でしゅ、か?」 ……噛んだ。ハズカシイ。 (……毎回思うけど敬語って何でこうムズカシイんだ!?) 舌っ足らずで、間抜けな声が出て、龍は若干むず痒くなって俯いた。 男は、そんな龍を面白そうに見つめた後、 「そうだよ、俺はここの教師だ。……君、新入生だよね。__そんな緊張しなくてもさ、何もしないよ?」 くすくすと可笑しそうに笑いながら、男性教師は目を細めた。形の良い唇が弧を描き、龍でも一瞬見蕩れて__。……いや、気のせいだと首を振る。 「ほら、歩ける?おいで」 まるで子をあやす親のように、こちらに手を差し伸べてくる。 「……俺、子供じゃないっスよ」 「__子供だよ。この高校に通う以上、君は俺の大切な生徒の一人だ。……それに、まだフラついてるだろ?」 先生はそう言って、龍の足元を指さした。確かに、彼の足取りはおぼつかない。力が入っていないし、頭病みもまだ治まっていない。 (……何でバレたんだ?) 龍は、内心驚いた。頭痛も吐き気も、視界が歪むのもいつもの事で、誰かと一緒にいた時に起こると余計な心配をかけたくないから我慢してきた。そうやっていれば、誰でも誤魔化せたのに。 龍が彼の手を取るのを迷っていると、先生はやや強引に龍の手を掴み、引き寄せた。 ふわり、と懐かしい香りがする。__何だっけ、この匂いは……。 (……?香水?どこかで__) 「……あの」 「ん?どうした」 「__俺と、会った事ありますか?」 龍と先生の目が交錯し__彼の瞳が、ますます細められる。……数秒後、彼は龍の頭をくしゃりと撫でながら、首を横に振った。 「……無いと思うよ。__君が知る限りは、ね」 さあ、行こうか。__そう言って、教師は龍の手を引っ張って歩き出した。 龍は、何故か胸に引っかかった違和感に首を傾げつつ、有無を言わせない力強い手に半ば引きづられるようにして廊下を歩いたのだった。
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