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「また浮気?まあ、優介くんはイケメンだもんね」
パンケーキを口いっぱいに頬張った菜々花が半分笑いながら軽く言う。
笑いごとじゃないよ。莉乃は声に出すかわりにじとりとした視線を返した。
菜々花はセルフサービスのメープルシロップをたっぷりパンケーキにかけながら顎を反らした。
「そんな顔でアタシを見たってしょうがないでしょ、莉乃。莉乃は舐められてるんだよ。いつも許しちゃうでしょ」
「だって、人気者の優介くんが私みたいに取柄のない女と付き合ってくれてるんだよ。文句なんて言えないよ」
「ふーん、それで、一生アンタは恨み言を言いながら生きていくんだ」
意地悪な猫目に見詰められて、莉乃は視線を下げた。菜々花は溜息を吐くと、シロップを掛けたパンケーキを不機嫌そうに口に運ぶ。
菜々花のパンケーキは順調に減っていた。だけど、莉乃の皿にはほとんど手つかずのままのパンケーキが残っている。
できたてだったパンケーキが冷めはじめている。丸く盛られていたバニラアイスがスライムのように蕩け、熱で緩んだ生クリームと混ざり合っている。
混沌とした皿の上は、まるで今の自分の心の中だ。
「一生なんて、そんな。結婚できるわけじゃないし。まだ、高校生だし」
いじけた言い訳に聞こえたらしく、菜々花の顔がさっきより険しくなる。
「高校生だからなに?遊びの恋愛でいいってわけ?だから、浮気もし放題ってこと?」
「そ、それは違うけど」
「すくなくとも莉乃にとって優介くんは運命の人で、ずっと一緒にいたいって思える相手なんでしょ?」
「うん……」
「そこだよね、問題は。優介くんはそう思ってくれてると思う?」
悲しいけど思わない。優介にとっては自分はそれほど大切な存在ではないのだろう。莉乃は首を横に振った。
「だよね。悪いけど、優介くんは不誠実すぎ」
「もう、ダメなのかな……」
溜息を吐くと、菜々花の表情が少し和らいだ。
菜々花がメープルシロップを手に取り、莉乃のパンケーキにたっぷりかけた。
「もうやめなよ。傷付くだけだよ。非生産的すぎだよ」
「そう、だね」
「飴ムチしてくる男なんて最低じゃん。ズバッと切っちゃいなよ。ほら、エナジーチャージして、びしっと闘ってきなよ!」
パンケーキを切り分け、フォークで突き刺して菜々花が差し出す。
雛鳥のように口を開くと、甘ったるい蜜を纏ったパンケーキが入ってきた。
ゆっくり咀嚼て飲み込むと、パワーが漲ってくるような気がした。
「こんどこそ、きっちり、優介くんと別れてくる」
そう宣言したのは、たった二時間前のことなのに。
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