ヒロシ外伝

俺はこの、スペシャルでファンタスティックな現象を、有意義に活用しようと思った。

勿論最初は、戸惑いと焦りを覚えた。どうしてこんな事になったのか、身に覚えが全くない。突然目を覚ましたら、俯瞰して自分がベッドに寝ている姿を見た。

身近にそんな体験をした者がいなかったので、テレビや小説の中での出来事だと思っていた俺は、次第に舞い上がり始めた。

『うひょひょぉぉぉぉぉい』

空をまるで、某ヒーローのように両手を前に突き出せば、意のままに自由に飛べる。物にぶつかる事もなく、不思議と腹が減ることも、眠気も一切起きない。そして何より、他人に俺の存在を気付かれる事もない。

男なら、誰もが一度は憧れを持つ力。

『ふっふっふっ……なんか、よくわからないけど……ついに……ついに、手に入れたぞ……透明人間』

意味を履き違えている気がするが、そんな事はどうでもよかった。

『相手から自分の姿が、見えなければいい』

最強で最高の力を手に入れた俺は、人間の3大欲求の内、2つは満たされる事はない。そもそも欲が湧かなかった。

だから……。