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 いつの間に傍にいたのかな。鈴の音さえしなかったのに。 「こーら、いのりちゃんがびっくりしてるでしょ」 「にゃーん」  猫は一声鳴いて、じっと私を見る。 「え? 何か言いたいの?」  そんなもの言いたげな目つきをしている。 「別に、笑いたくない時は、笑わなくていい」  ハッとして、顔を上げる。  言ったのは、朔也さんだ。 「私のことを知ってるんですか?」  朔也さんは、眉を上げてとぼける。 「君の事情など、知らない。ノワールの言いたいことを代弁したまでだ。それに反対のことも言える。笑いたい時は、笑えばいい」  そんなことは、わかっている。それができないから……。 「それができないから、悩むんじゃないの。みんなはね、朔也みたいに強くないのよ」  摩耶子さんも言う。 話をしなくてもだいたい察しがつくほど、ありそうなことなんだ。 こじらせているのは、私だ。同じところをぐるぐる回っているから、糸が絡む。  もっとシンプルに生きればいいのかな。  朔也さんが言った言葉が、もつれた心をほぐしてくれる気がした。
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