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4.
摩耶子さんから電話がかかってきたのは、次の日だった。
「おはよう。ねえ、今日は? 講義は何限目?」
講義は3限で終わる。でも、借りた着替えの洗濯はしたが、まだ乾いていない。アイロンもかけたい。
「そんなの、いつだっていいの。ね、ナッツたっぷりのケーキを焼いたのよ。スパイシーなチャイが合うと思うのよね」
そんな魅惑的な誘いに、抗えるわけがない。
駅を出ると、昨日教えてもらった道を進む。
分岐点では、目印を覚えていたつもりだった。けれど、やはり昼と夜では見え方が違う。
「んー、よし、右だ」
すると、鈴の音がチリリと聞こえた。塀の上に黒猫がいる。
「あ、ノワール」
すたっと、目の前に飛び降りる。そして、左の方に歩き出した。
「ここを左でしたか」
ついて行くのはいいが、また道を覚えられなくなってしまう。
後ろを追いつつも、キョロキョロと周りも確認した。
見覚えのある門にたどり着く。「河野」と表札もある。
夢じゃなかったと、心が躍った。
「ごめんくださーい、高橋です」
戸を開けてくれたのは、朔也さんだった。
「いらっしゃい」
ぶっきらぼうにそう言うと、自分はさっさと中に入ってしまう。
私はその後を「おじゃましまーす」と言いながら入る。
格子戸を閉める直前に、するりとノワールが入ってきた。
改めて「こんにちは」と挨拶する。
ノワールはこちらをくっと見ると「にゃーん」と鳴いた。
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