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 摩耶子さんから電話がかかってきたのは、次の日だった。 「おはよう。ねえ、今日は? 講義は何限目?」  講義は3限で終わる。でも、借りた着替えの洗濯はしたが、まだ乾いていない。アイロンもかけたい。 「そんなの、いつだっていいの。ね、ナッツたっぷりのケーキを焼いたのよ。スパイシーなチャイが合うと思うのよね」  そんな魅惑的な誘いに、抗えるわけがない。  駅を出ると、昨日教えてもらった道を進む。  分岐点では、目印を覚えていたつもりだった。けれど、やはり昼と夜では見え方が違う。 「んー、よし、右だ」  すると、鈴の音がチリリと聞こえた。塀の上に黒猫がいる。 「あ、ノワール」  すたっと、目の前に飛び降りる。そして、左の方に歩き出した。 「ここを左でしたか」  ついて行くのはいいが、また道を覚えられなくなってしまう。  後ろを追いつつも、キョロキョロと周りも確認した。  見覚えのある門にたどり着く。「河野」と表札もある。  夢じゃなかったと、心が躍った。 「ごめんくださーい、高橋です」  戸を開けてくれたのは、朔也さんだった。 「いらっしゃい」  ぶっきらぼうにそう言うと、自分はさっさと中に入ってしまう。  私はその後を「おじゃましまーす」と言いながら入る。  格子戸を閉める直前に、するりとノワールが入ってきた。  改めて「こんにちは」と挨拶する。  ノワールはこちらをくっと見ると「にゃーん」と鳴いた。
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