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それから、何度も摩耶子さんから連絡があった。
「とろとろのあんこを煮たの。できたてのどら焼きを食べられるわよ」
「パイ生地サクサクの、焼き立てのアップルパイって、食べたことある?」
そこでしか食べられないものをどうしてこんなに知っているんだろう。
当然、返事は「YES」しかない。
摩耶子さんは、元は国際線のCAだったらしい。旅行が趣味で、外国の話をしてくださる。好奇心の塊のような人で、話題が豊富で尽きなかった。
家は新しくはなかったが、欄間や窓枠に凝った趣向がうかがえる。丁寧にセンス良く暮らしているのがよくわかった。そして懐かしい気分になる。そう伝えると、
「今どきの若い人が、古民家をリノベーションした付け焼刃じゃないのよ。家も人も、ほんとに年季が入ってるんだから」
と、摩耶子さんはころころ笑った。
ノワールに会えるのも嬉しかった。
私は猫好きだけれど、アパートはペット禁止だったから。
ノワールは私が行くと、「また来たの?」という態度でスーッと横切る。素知らぬ風を装ってはいるけれど、気にしているのは見え見えだった。私が摩耶子さんのスイーツに目が無いのと同じで、猫好きの罠に引っかからないはずがない。
私が指をチラチラ動かすだけで、顔をすり寄らせてくる。時にはザラリとした舌で、なめたりする。そしていつしか、私の傍で丸まっている。
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