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 朔也さんはそのノワールそっくりだった。  不愛想に、中に入れてくれる。しばらくすると顔を出し「また甘い物につられてきた」と憎まれ口をたたく。話に、茶々を入れるというパターンだった。  平日に家に居る。  何をしている人だろうと興味が湧いた。  摩耶子さんに聞いてみる。  すうっと目を細めると、「小説家よ」という答えが返ってきた。 「河野朔也さんて作家さんは……」 「一応、ペンネームで書いてるわ」 「ああ、そうですよね」    誰だろうと考えを巡らす。 「最近好きな作家さんがいて、その人の作品ばかり探して読んでいるんです。この家の雰囲気によく似ていて、黒猫が出てくる話もあるんです」  だから、この家に初めて来た日もノワールについてきてしまったと話す。 「何ていう名前の人?」 「佐久間幸っていうんです。幸せって書いてコウって読むんですけど」  摩耶子さんが笑い出す。
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