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「心情の描写が特にいいんです。叙情的すぎて、女々しいところもあるけど」  摩耶子さんはお腹を抱えて大笑いしている。そこまで笑われるのは心外だった。 「私の好きな作家さんなのに、そんなに笑うなんてひどいです。」 「ごめんごめん。だって、ねえ朔也」  朔也さんを見ると、いつにも増して、ぶすっとしている。 「まさか、佐久間幸って、朔也さんですか」  ペンネームは、名字と名前の読みを反対にしただけだった。 「ああ、だからなんだ」  この家に感じる既視感は、作品で読んでいるからだと納得する。 「ごめんなさい! 女々しいなんて言って」 「……いいよ、別に」  摩耶子さんの笑いがぶり返した。  朔也さんが佐久間幸だとわかってからは、ぶっきらぼうな物言いも気にならなくなった。  それは、不思議な感覚だった。  この人の感じ方や考え方をわかっている。それは、話して得られるよりもずっと深い関わり方のように思う。  反対に朔也さんは、手の内を知られたようで、分が悪くなったと思っているようだった。
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