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いつになったら止むだろうかと見上げていると、足元でチャリ……と鈴の音がする。驚いて下を向くと、そこには真っ黒な猫がいた。 「びっくりした。君も雨宿り?」  前足をきちんとそろえて座る姿は、黒ヒョウのようだ。  逃げるだろうかと思いながら、私はしゃがんで猫と目線を合わせる。  猫は動じる様子も無い。凛としたたたずまいに、気品すら感じる。その姿は、昨日まで読んでいた小説の中の黒猫を連想させた。 「君はノワールね」  すると、その猫は、耳をぴくりと動かした。目も金色の光を増したように感じた。  そして、すっくと身を起こすと、「にゃー」と鳴いた。イメージ通りの、かすかにハスキーな声だった。  私の足元に、そっとすり寄ってくる。 そのしっとりとした滑らかさは、まるでビロードの布で、ひと撫でされたみたいだ。
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