13人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、あなた、ずぶぬれじゃないの!」
それからが大変だった。
入って入って、バスタオルでないとダメね、着替えを出してあげるわ、髪を乾かしなさい、ああやっぱりあったかいお風呂よ、朔也お湯をためて、大学生? 図書館の帰りね、本は濡れてない? あら、ノワちゃんのぞき見はいけないわよ、遠慮しないでゆっくりあったまりなさいね。
湯船に身を沈めながら、知らない家で、いきなりお風呂を使わせてもらってる私って、何なの? と思っていた。
「あの……ありがとうございます」
用意してもらった服に着替えて出ていく。
「あら、まだ髪が乾いてないじゃないの」
ドライヤーまで使うのは、あまりにも厚かましい気がしたのだ、
私はソファーに座らされた。女性はドライヤーを持ってくると、私の髪を乾かし始める。
「せっかくあったまったのに、また風邪引いちゃうわ」
私は成すがままになっていた。
ドライヤーの熱で、頭も首筋も温まる。おまけに、人にしてもらっている。
それは、とろんと溶けていくほど心地良かった。
大学に入って2年、地方から出てきて一人暮らしをしている。
友だちはそれなりにできたけれど、こんな風に人に甘えるのは久し振りな気がする。
「ああ、やっぱり女の子はいいわあ。こんな感じで髪を乾かしてあげるのって、してみたかったのよね」
突然、実家の母を思い出した。子どもの頃、母にこうやって髪を乾かしてもらったことがよみがえった。
「はい、終了。え? あなたどうしたの? ドライヤーが熱すぎた?」
私は知らずに、涙を流していた。
最初のコメントを投稿しよう!