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「まあ、あなた、ずぶぬれじゃないの!」  それからが大変だった。  入って入って、バスタオルでないとダメね、着替えを出してあげるわ、髪を乾かしなさい、ああやっぱりあったかいお風呂よ、朔也お湯をためて、大学生? 図書館の帰りね、本は濡れてない? あら、ノワちゃんのぞき見はいけないわよ、遠慮しないでゆっくりあったまりなさいね。    湯船に身を沈めながら、知らない家で、いきなりお風呂を使わせてもらってる私って、何なの? と思っていた。 「あの……ありがとうございます」  用意してもらった服に着替えて出ていく。 「あら、まだ髪が乾いてないじゃないの」  ドライヤーまで使うのは、あまりにも厚かましい気がしたのだ、  私はソファーに座らされた。女性はドライヤーを持ってくると、私の髪を乾かし始める。   「せっかくあったまったのに、また風邪引いちゃうわ」    私は成すがままになっていた。  ドライヤーの熱で、頭も首筋も温まる。おまけに、人にしてもらっている。  それは、とろんと溶けていくほど心地良かった。  大学に入って2年、地方から出てきて一人暮らしをしている。  友だちはそれなりにできたけれど、こんな風に人に甘えるのは久し振りな気がする。 「ああ、やっぱり女の子はいいわあ。こんな感じで髪を乾かしてあげるのって、してみたかったのよね」    突然、実家の母を思い出した。子どもの頃、母にこうやって髪を乾かしてもらったことがよみがえった。 「はい、終了。え? あなたどうしたの? ドライヤーが熱すぎた?」  私は知らずに、涙を流していた。
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