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私は心の奥で腹が立っていたし、焦ってもいた。
鞄の中には、私の使っている麻薬があるはずで、それがなければ禁断症状が起きたときに、大変に辛い思いをするはずだ。
「イザベラ、私の薬を返せ」
私がそう言うと、彼女からはきぜんとした言葉が返ってきた。
「馬鹿ね。あんなものもうないわ。全部捨てたもの。これからも永遠に指一本たりとも触れさせないわ」
そう言って窓際を離れ、私のベットに近づいてきた。黒い皮手袋をはめた手で、私の頬にそっと触れる。彼女の艶やかな赤い唇が動いた。
「馬鹿な人。あんなちんけな薬に恋をして。精神を病んで。あなたは繊細で、臆病で、寒さに震えてるコマドリのようね」
彼女はそこで言葉を切り、私を見つめた。
長いまつげに縁どられた、漆黒の瞳。その深い眼差しの奥には、強い意志が燃えていた。
「よく聞きなさい。あなたはここで、私の奴隷になるの。ここは警察の手も届かない秘密の場所。あなたを助ける者は誰もいない。脱出は不可能よ。あなたはここから逃れられない」
「何……何だって。君は気が狂ってるのか。それとも空想遊びが過ぎるようだな」
イザベラは微笑んだ。黒い革の鞭を取り出し、端を床にたらした。薔薇鞭だ。
「これはお願いじゃないわ。私からの命令よ。従いなさい。好きなだけ哀願すればいいわ。あなたの苦痛は甘美でしょうね。壊れやすい精神ゆえに、あなたは美しいのだから」
そう言って彼女は離れ、カーテンを引いた。まぶしい外の世界が見える。彼女の豊満な身体が黒いシルエットとなった。
眩しい陽の光と共に、外の世界が見える、高い空を背景に、小さな街が見下ろせた。縁柱や大理石や、古代ローマに似た街並み。
ここはいったいどこの国なのだろうか?
私は何か夢でも見ているのだろうか?
あっけにとられた私のところに、彼女は戻ってきた。そして、彼女は私に口づけた。触れるだけのような、優しい口づけ。
胸の奥がざわめいた。それが嫌悪感なのか、戸惑いなのか、よく分からなかったけれども。
彼女は私の頬に手を当てたまま、私に告げた。
「あなたのすべきことはただひとつ。私の支配を受け入れるのよ」
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