第八話 二人の時間

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 休憩のおかげでようやく私は一息つき、イザベラの話を聞いていた。私は彼女におびえつつ、同時に惹かれてた。 「あなたを満足させられるのは私だけ」  そう言って、彼女はまっすぐに私の瞳を見つめてくる。  倒れている私に馬乗りになり、私の頬に手をそえ、悪戯っぽく笑いながら。  彼女の漆黒の瞳と目が合う。  その深みに魅惑され、胸が高鳴った。 「私だけよ」  そういって、彼女は身をかがめて口ずけをしてきた。自分でも、自分の頬が染まってゆくのが分かる。  これが恋なのか、崇拝なのか。洗脳なのかはわからない。  彼女のためなら、何だって出来る。そのために死ねる。この命も惜しくはない。  肉体は傷つけられているはずなのに、心は安堵している。  彼女に大きく包まれているような感じがする。  彼女のために生きたい。側にいたい。  初めて胸に生まれた、たったひとつの願い。  愛している、だがそんな言葉が陳腐に思えた。  もっと深く、もっと心の底から、彼女に愛の賛歌を捧げたかった。  なぜだか、胸が痛む。  愛の言葉の代わりに、彼女のための詩がこぼれた。トマス・ムーアだ。 「夏の……」    私は彼女の前で、詩の暗唱を始めた。 「……夏の名残のバラ……。一人寂しく咲いている……。 美しいバラ色を思い起こせば ただため息をつくばかり……」 「詩の暗唱? いいわ、続けて」  イザベラは椅子に座り、長い足を組んだ。 「美しきものと共に 汝も行き眠らん  ベッドの上にまき散らした汝の花弁  汝の仲間達は 庭で香りもなく枯れ果てる……」  私の暗唱する詩に、イザベラは初めて満足げな顔を見せた。私の詩が気に入ったようだ。  私もまた、喜びの中にあった。  彼女のために生きること。彼女を幸せにすること。  そのために私は生まれた。  そうか……。  自分にも、生きる理由があったのだ。
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