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第九話 海のひかり
呼んで、あなたの美しさを
間違いないようのない確かさで
呼んで、ゆるやかな声で
この世界の中核なる者を
Sea of carm
あなたは私のひかり
繰り返し波打つ 海の女神
ある日突然に、奴隷の私と女主人の蜜月は終わった。
アフリカの魔の都から解放され、人間社会に復帰するように、という命令をイザベラから受けたからだ。
表向きは私は誘拐されたのではなく、長期のモナコ滞在ということになっていた。体調を崩し、コート・ダジュールの高級保養所で過ごしたと。
もともと親しい人もいない私だ。この説明に誰も疑いを持たなかった。
アフリカを出ると、人間らしい生活が戻ってきた。
仕立ての良いスーツを着こなす、完璧な紳士の自分。
首にはもう首輪はなく、鎖もない。
動物のように地をはって歩くことはなく、二本の足で立つ。
屋敷でも、クラブでも、もう命令をきく側ではなく、命令をする側だ。
背広の下の肌には、鞭の跡が残っている。
どこか落ち着かない。
奴隷と紳士。
どっちが本当の私なんだろう。
不安になったときに再度、イザベラから連絡があったときは、喜んで飛びついた。
彼女もまた、アフリカを出て、ヨーロッパの社交界に帰ってきていた。SMクラブの女王という裏の姿を消し、社交サロンの華へと。
日時の指定はなく、イタリアの地中海近くのある場所で待つように指定された。言われる通りの場所へ行くと、それは別荘地に建つ歴史のある高級ホテルだった。
イタリア式の贅をこらした意向の建築に、広い庭園。テラスからは海が見下ろせる。
そこで10日ほど滞在しながら待っていたときだ。
イザベラは、真紅のポルシェを自ら運転してやってきた。
笑顔の彼女と再会したとき。
全身がしびれるような感覚が走った。
自分の内なる生命力に、初めて触れたような。
灰色だった世界が、色を取り戻して輝きだす。
私は彼女を愛していた。
崇拝していると言っても良かった。
彼女なしではもう、生きられない──。
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