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第四話 孤独な大富豪
成人した後も、私の孤独は深かった。
私は自分の予想以上に、莫大な遺産を相続していた。その額は祖母と母の死後に初めて知ったくらいだ。だが遺産は私を幸せにしなかったし、私の存在は誰も幸せにしなかった。
パーティや社交界で私に近づこうとする者も沢山いたが、私にとっては誰もがわずらわしかった。自分の祖母のこと、母のこと、父のことを、誰が話せようか? これは私の抱える闇であり、秘密だ。
私には自分が生まれた意味が分からなかった。
生きている意味も分からなかった。
意味などないと言う人もいる。生きているだけでいいことなのだと。
だがそういった価値はきっと体感して学ぶもので、言葉でつくろえるものではないのだ。
女というのは気苦労の種と思い、かといって同性に惹かれるわけでもなく、私は生きてきた。
考えても見たまえ。
いったいどこでどうやって愛や恋を学べというのか。
文章で、テレビで、映画で、恋愛が大安売りされている時代に。
富豪と恋愛したり結婚を望むやからに、私は何を言ったらいいのか分からない。むしろ理解に苦しむ。
資産は私の魅力ではない。それはパスポートにすぎない。身分証明書、通過のための証明だ。そこに何の意味があるんだろう。
嘆かわしい。真実の扉は常に閉じているのだ。慎重に開けてほしい!
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