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結局のところ、私も人間だ。多くの人間と同じように傷つき、苦しみもする。それを多くの人が分かっていない。
超然とした態度で陰謀をめぐらし、民の運命を操る支配者──俗にまみれた陰謀の主。
そんなものではないのだ。勘違いしないで欲しい。責めているわけではない。本当にそうであったら、母のように愛情を求めて壊れてしまう人間がいるわけがない。
本当の私は、ちっぽけな人間だ。傷つき、泣き、悲しむ心を持ったただの人間だ。それ以上でも、それ以下でもない。
今となっては恥ずかしい話だが、若いころの私は麻薬に耽溺した。正直に言えば、こういった自分の弱さをさらけだす方が、性生活を話すより数万倍は恥ずかしい。
今回、私はあえてその壁に挑戦してみようと思う。
若い頃、沈鬱になると屋敷でソファに座り、麻薬にひとり酔いながら、歌劇のレコードを聴いていた。
音楽の波に飲まれて、自分の深いところに心が沈んでゆく。そのとき私はひとりでいる事の幸せを見出していた。
キルケゴールの語りのように、孤独とは生命の要求だ。
そして私は折れやすい自分の心を繭でくるむようにして過ごした。
書くことは、さらけ出すことだ。
私は自分でも認めたくないような弱い自分、人によく見られたいという自意識を、私はこの手記によって手放している。
何のことはない。私は誰かに愛されたかったのだ。
これを認めるのは恐ろしいことだ。渦巻く川の激流に身を投げたほうがましだ。
望みながらも決して満たされないということを認めるなんて。
「いつかどこかに運命の相手がいる」そんな幻想を、私は抱かずに育ってきた。希望を持つことを愚かしく感じた。
現実では、私は誰も愛してはいないのだから。
一体誰が私のことを愛することが出来るのだろう。
誰もいやしないのだ!
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