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大学受験を間近に控えた冬のその日、有紗は高校をサボることにした。
朝いつも一緒に電車に乗っている友達には「用があって遅れるから」と事前に連絡をした。
いつもと同じように家を出て、時間を潰しながら1時間遅い反対方向の電車に乗った。
普段なら高校生でいっぱいの電車も、1時間違うと、もう誰も乗っていなかった。どこへ行くのだろうか。車両の中には、老人夫婦や大きなリュックサックをしょった女性、スーツ姿の男性、そして有紗と同い年くらいの私服の女の子が二人、おしゃべりをしていた。
有紗の高校も私服だが、同じような年の子がいることに少し安堵し、ボックス席に座ると深呼吸を一回した。
……行けるところまで行くんだ。
1限目の数学は出欠をとったときに友達が「遅れるみたいですよ」と言ってくれるだろう。
問題はその後のショートホームルームだ。いないのに担任に連絡が来てないとなれば、きっと親に連絡が行く。親にばれれば……。
どのみち、親にも学校にも怒られることにはなるのだ。
それはそれでしかたない。まあ、いいよ。
反対方向にはほとんど乗ったことがなかった。車窓から見える景色がいつも見ているものと違う。住宅が段々減っていく。
「学校をサボって遠くに行ってみたい」などと有紗にとっては大それたことを思いついたのは、脳裏から鮮やかなレモンイエローが離れなくなったからだ。
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