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橋の袂に、色あせたオレンジ色が見えた。
圭太のくたびれたTシャツだ。
このあたりで子どもが隠れられる場所といえば、橋の袂の、コンクリートが奥まってフェンスで防がれたところだけ。
草をかきわけて近づくと、立入禁止のフェンスの向こうに圭太が膝を抱えて座り込んでいた。
「圭太くん、帰ろう?」と声をかけると、圭太は身を縮めるように膝の間に顔を埋めた。
フェンスを乗り越えて隣に座った。
かすかに圭太の体がビクッとした。
握りしめ過ぎた小さな手の指の先が赤くなっているのに気づいて、悲しくなる。
「ママもパパも心配してるよ」
反応はない。
遊歩道を自転車やジョギングの人が通り過ぎていく。
でもここに2人の子どもがいることに誰も気づかない。
少しずつ川の色が夕陽に染まり、河川敷の丈の高い草が風に揺れ始めた。
「……帰りなよ」
くぐもった声が聞こえて、ハッと隣を見た。
「帰るなら、圭太くんと一緒に帰る」
「なんでだよ、オレの家じゃないし」
「ううん、圭太くんの家だよ。これからずっと」
「そんなのオレ、頼んでないだろ!」
ふいに圭太が立ち上がって怒鳴った。
見上げると、悔しそうに唇を噛み締めながら、その両目にいっぱい涙を溜めていた。
「じゃあ帰らなくてもいいよ。そのかわり、お姉ちゃんも一緒にいる」
そう言うと、圭太は言葉に詰まったように口をつぐんで、また隣に座りこんだ。
「……勝手にしろよ」
拗ねた声に頷き返すと、圭太はまた顔を伏せた。
父と母に見つかれば怒られるだろうけれど、圭太が納得するまではそばにいてあげたかった。
まだ小学生なのに、突然、栞の家に引き取られた圭太のそばに。
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