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夜が静かすぎて、午前2時を指した針の音がやけにうるさい。
実家の自分の部屋だというのに寝つけない理由は分かっていた。
知らない男の人に見えた、5年ぶりの圭太。
〈オレ、栞が好きだ〉
怒ったような真っ赤な顔をしてそう言った圭太は、まだ変声期前の高校生だった。
いつから圭太は、姉ちゃんではなく、栞と名前で呼ぶようになったのか。
その意味に気づかないでいた私は、突然の告白に向き合えなかった。
だから逃げるように大学進学を機に家を出て、そのまま就職までしたのに。
ため息をついて、体を起こした。
隣の圭太の部屋は静まり返っている。
深夜遅くまでバイトだという。
それも留学費用のためだろうと、父は夕食の席で寂しげに呟いていた。
養子であることを意識して、いつも何かを我慢していた圭太。
もう大丈夫だよと、もう好きにしていいんだよと伝えたくて、あの日まで、いつも圭太の隣にいた。
でもその結果が――。
軽く着替えて階下に降りると、玄関からそっと外に出た。
都会の夜と違ってとても暗い。
目的も方向もないまま歩き出した。
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