夜明けの向こうへ行く時は

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風が揺らす草の音と川の流れる音とばかりが、暗闇の中でやけに耳を打つ。 意識していたわけじゃないのに、気づくと電車から見たあの橋に来ていた。 施設から引き取られた日に家出して、幼い圭太が逃げ込んだ橋の袂。 久しぶりにその場所に行くと、フェンスはだいぶ老朽化して、ところどころ破れている。 潜るには小さく、仕方なくよじ登ろうとしてフェンスの頼りなさに諦めた。 もうあの頃のように軽くもない。 フェンスの前に座ると、見えない川の音が大きくなった気がした。 圭太が、手の届かない遠くへ行ってしまう。 それはきっと私のせいだ。 幼い頃のように姉ちゃん、と呼んでもらいたかったのに、さっきの姉ちゃん、という声は、望んでいた「姉ちゃん」とは違ってしまっていた。 何事もなかったかのように弟の顔をして振る舞いながらも、私と圭太の間には見えない線が引かれていた。 そう思ったら胸の奥がぎゅっと痛くて、涙がにじんだ。 5年の歳月が圭太と私の壊れた関係を少しでも元に戻してくれるかもなんて甘い考え。 今日の圭太から、もう元に戻れないと、そうはっきり告げられた気がした。 やっぱり帰ってくるべきじゃなかった。 鼻の奥がつんとして、涙がこぼれた。 無邪気に手を繋いでいられたあの頃に戻りたかった。
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