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ふと草を踏みしめる音がして、身をこわばらせた。
「……そこにいるの、姉ちゃん?」
まだ聞き慣れない低い声は、圭太だ。
慌てて涙を拭うと立ち上がった。
「な、なんでここが」
「姉ちゃんの行き先くらい想像つくって。つうかこんなとこで何やってんだよ……」
呆れた声で、圭太が足早に近づいてきた。
「ちょっと夜風に……」
「だからって時間と場所考えろよ。母さんから姉ちゃんがいないって緊急連絡入って、ほんと心臓止まるかと思ったよこっちは」
怒った口調の中で息づかいが荒い。
心配してくれたのが分かって情けなくなる。
ふと圭太が私の顔を覗き込んだ。
急に真剣な瞳が至近距離から私を見て、どくんと心臓が跳ねた。
「……姉ちゃん、泣いてた?」
「な、泣いてないっ」
振り払うように顔を背けると、「あっそ」と冷たく言われて胸の奥が痛んだ。
やっぱり、もう無理なんだ。
そう思った時。
「ほら帰るよ」
そう言って、圭太が強引に私の手を掴んだ。
その瞬間、ドキリとした。
私の手をすっぽり包むほど大きくなった、骨張ったあたたかな手。
それを振り払えずに圭太に引っ張られて歩く。
本当は、留学のことやいろんなことを、……告白のことを謝りたいのに、言葉が出ない。
圭太も何も言わない。
ただ、繋いだ手が熱い。
そのせいで、圭太なのに鼓動が落ち着かない。
それが今は伝わらないでと、願った。
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