夜明けの向こうへ行く時は

7/8
前へ
/8ページ
次へ
橋にあがった時だった。 「オレ、留学したらこっち戻る気ないからさ。だから……姉ちゃんは実家戻りなよ」 心臓が、ばくんと大きな音を立てた。 「な、んで」 「オレいたら、姉ちゃんきついだろ」 手を引っ張りながら自嘲するように言った圭太の背中を見つめた。 いつのまにか広くたくましくなった、私の知らない背中。 「……ずっと後悔してた。オレのせいなのに、姉ちゃんのこと勝手に避けて傷つけて」 「圭太」 「でもさ、でもやっぱり顔見たら、オレ……」 圭太が立ち止まった。 「オレは、姉ちゃんと、暮らせない」 背中が小さく震えているのが分かって、抱きしめたくなる。 小さな圭太が泣いていると、「大丈夫だよ」と言ってそうしていたように。 でも、きっとそれはしちゃいけない。 いけないのに、手が伸びる。 泣かないで。謝らないで。 短い間でも築いてきた日々を嘘にしてほしくない。 「圭太、覚えてる? さっきの場所……圭太が逃げた」 圭太が小さく頷く。 「私、ずっと弟がほしかった。だからあの時、何があっても圭太のそばにいようって、この子を守ろうって思った。なのに圭太、こんなにかっこよく大きくなってて、なんで……なんで、小さいままでいられないの」 「姉ちゃん……」 「でもこのまま圭太が離れていくのも嫌なの。圭太、お願い、もう帰ってこないみたいなこと言わないでよ。そんなの、私……」 声が震えて言葉にならない。 思わず、その背中の服をつかんだ。 圭太が振り向いた。 辛そうに歪んだ表情が一瞬見え、衝撃とともに抱きしめられた。 「……ごめん、姉ちゃん」 知らない腕の強さ。 知らない胸の厚さ。 知らない熱。 「好きになって、ごめん」 圭太が苦しげにそう言って、泣いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

107人が本棚に入れています
本棚に追加